出典:本レポートは note.com の Rena 氏(@rena_fr)執筆のマガジン「For Rangers Ultra 2024」を、著者の許諾を得て転記しています。各セクション冒頭に原典 note 記事へのリンクを記載しています。再利用時は必ず原典 URL と著者名を併記してください。
練習・準備
原典: アフリカのサバンナを走る For Rangers Ultra って?(2024-03-23 公開)/出発の日が近づいてきております…そしてお願いが…(2024-08-27 公開)
レースとの出会い
前々から気になっていたケニアのサバンナを走るステージレース、FOR RANGERS ULTRA だが、出場するなら2025年以降かなとうっすら考えていた。
ところが、昨年ルーマニアのレースで出会った仲間達から、出場経験のある人は「絶対出た方がいい」と勧められ、既にエントリー済みの人からは、「一緒に出よう。(エントリーするまで)何度もリマインドするからね。」と言われていた。
更に、今年のセネガルのレースで出会った仲間達からも、「すごくいいレース、野生動物がすぐそばで見れる。レンジャーがずっと見守ってくれているから安心だし、出れるうちに今すぐ出た方がいい。」と、めちゃくちゃレースを推してくる。
とても人気のあるレースですぐ出場枠が埋まってしまうのだが、幸いにして、私がチェックした時には数枠の残りがあった。
これはもう行けと言っているんだな、と勝手に解釈しエントリーだん。蓋を開けたら、出場枠100のうち、20が日本人選手で埋まっているという、、。
レース直前
やばいです。やばいです。 体重が過去最重量レベルから落ちることなく、ケニア行きを迎えてしまいました。自動車の合宿免許から戻ってきたら、「少しはランニングする」とか言いながら、自宅に引きこもってずっと奈良時代を彷徨っていました(意味不明)
砂漠仲間にレースの準備状況を聞かれて、体重が落ちないと嘆いたら、 「The race will make you lose weight.」 って言われました。う、うん…なるほど、そうね、レースでダイエットするか。
レンジャー支援募金活動
今回のケニアで開催される230km/5日間のレース、For Rangers Ultraは、サイ・ゾウ・シマウマ・キリンなどが生息する 5つの野生動物保護区(レワ野生動物保護地区、ボラナ野生動物保護地区、ロルダイガ保護区、オル・ジョギ保護区、オル・ペジェタ保護区)を走り抜けます。
今まで世界中のいろんな場所(砂漠、熱帯雨林、山、南極、ブッシュなど)のレースに出場しましたが、今回のレースの舞台、サバンナが一番ヤバい かも。
通常、サファリツアーとかで車で行く野生動物保護区を、自分の足で歩いたり、走ったりするわけですよ。レース中に、密猟者や肉食獣に遭遇したり、ゾウやサイなどの野生動物が突然牙を剥いてくる かも しれないという危険をはらんでいるわけです。
そんな私たちランナーの安全を守ってくれるのが「レンジャー」です。彼らは、サイの角や象の象牙などの野生動物からの生産物の数十億ドル規模の違法取引から、アフリカの絶滅危惧種を守るため、日々命をかけて活動する勇敢な方々です。レンジャーはレース中、私たちを見守り、安全を確保してくれます。
このレース主催者は、レンジャーがさらされている危険や苦難に注目を集めるため、このような過酷なレースを開催し、レンジャーたちの福祉に直接必要な資金を集めようとしています。
このレースで得た収益と、参加者が募金活動で集めた資金は、支援団体がサポートする2,500人のレンジャーに全額寄付されます。野外での生活をより快適にするための基本的な装備品や、彼らの子供たちの教育機会、そして2003年以降アフリカ全土で1,000人以上のレンジャーが殉職していることから、最悪の事態が起こった場合のレンジャーの家族の福祉に使われるとのことです。
装備
2年前に同じ主催者のジャングルマラソンに出た時に揃えた装備とほとんど変わらないのだが、包帯類がなんか増えているな…。

【医療品】
- Paracetamol (Acetaminophen) 15x500mg / 解熱・鎮痛薬
- Diarolyte x 3 Sachets / 電解パウダー
- Loperamide (Imodium) x 6 tablets / 下痢止め
- Chlorpheniramine (Piriton) x 10 tablets / 抗アレルギー剤
- Antiseptic Cream x 1 Tube / 消毒クリーム
- Antiseptic Wipes x 10 Wipes / アルコール(消毒)ティッシュ
- Trauma Dressing x 1 / 外傷治療包帯
- Plasters (Band Aids) x 5 of Varying Sizes Crepe Bandage / バンドエイド(様々なサイズで5つ)
- Crepe Bandage / 弾性包帯
- Triangular Bandage / 三角包帯
- Latex Gloves x 2 Pairs / ラテックスグローブ
- Compeed Plasters x 4 / ハイドロコロイド絆創膏
- K-Tape x1 roll / キネシオロジーテープ
- 2 x 21g Needles / 注射針 21g
- Tweezers x 1 Pair / ピンセット
- Scalpel Blades 2 x Blades Securely Packaged / メス(安全包装)
- Suncream – minimum 100ml factor 30 / 日焼け止め 100ml、SPF30以上
- Alcohol hand sanitizer x 1 bottle / 手消毒用アルコールジェル
【装備品】
- Space Blanket / エマージェンシーブランケット
- Rehydration salts for entire race / レース中の水分補給塩分
- 2 liters of water carrying capacity / 2リットル分運搬可能な水ボトル等
- Water purification tablets / 浄水タブレット
- 2,200 calories food per day / 1日最低2,200kcalの食料
- Head Torch and 1 x Set of spare batteries / ヘッドライトとスペア電池
- Mobile Telephone (must remain charged throughout) / 携帯電話(レース中充電されてること)
- Survival Whistle / ホイッスル
- Safety Pins x 8 / 安全ピン8つ
- Knife / ナイフ
- Suitable rucksack to carry equipment / バックパック
- Compass / コンパス
- Sleeping bag (night time temperatures can be as low as 5 degrees) / 軽量の寝袋(夜間は5度くらいに下がる)
- Therma-rest, Sleeping mat / サーマレスト、マット
- Travel Insurance with Medical Evacuation cover / 旅行医療保険に加入し、パスポートと保険証(保障内容の詳細)のコピーをレース中は常に防水して保持しておくこと。
【服装】
トレイルランニングシューズ/ブーツ、レースに適切な衣服
【必須ではないがお薦めするもの】
- Night, Camp Clothing / 夜間、キャンプでの服(蚊、夜間の防寒対策として長袖シャツ、ズボンを推奨)
- Camp footwear / キャンプで履くもの(スリッパなど)
- Buff style head were / バフみたいな頭に被るもの(日差しよけ、夜間の防寒対策、水に濡らして涼んだりする)
- Coffee, Tea and Sweets / コーヒー、お茶や甘いもの(ロングデーのちょっとしたご褒美に)
- Washing kit / 歯ブラシ、歯磨き粉、石鹸
食事・補給
- 1日最低 2,200kcal の食料を全日分自分で背負う
- 給水・お湯は主催者がキャンプ/チェックポイントで提供
- 水分補給塩分・浄水タブレットは必携
- 任意ながら、ロングデー用のコーヒー・お茶・甘いものはあると気力回復に効く
レースレポート
Day 0:ナイロビ到着 — 2024.8.30
朝焼けに染まるアフリカの大地。広がるサバンナの草原を駆け抜ける先に、シマウマやキリンが静かに佇む。そんな光景の中を、自分の足で走る贅沢を味わう。人生で一度は体験したい、そんな夢が今、現実になろうとしている。
深夜にドーハを飛び立ってから約6時間後、現地時間の早朝にナイロビに到着する。フライトスケジュールを直前まで勘違いしていた。ドーハでまさかのほぼ丸1日のトランジット時間を経て着いたものだから、まるでマラソンのラストスパートを間違えて、ゴールラインが遠ざかるような感覚だった。
ナイロビ市内の治安はものすごく悪いとあちこちから聞いていたので、宿泊予定のホテルに送迎をお願いしていた。何だか忘れられているような予感しかしなかったので、ドーハにいる時に念のためリマインドのメールを送っておいた。
イミグレーションや税関で「賄賂を要求されるかも…」とドキドキしながら向かったが、特に問題なくスムーズに通過。拍子抜けするほど普通だった。
空港の到着口に出ると、ホテルの人が私の名前を書いたボードを掲げて待っているはずが、やはり予感は的中した。送迎?来てないし!もう、この期待を裏切らない感じ、さすがケニア人。
到着口にいる送迎の人が掲げているボードをくまなく見て歩いた。2、3回は往復したと思う。取り敢えず、落ち着こうか。到着口そばのカフェでコーヒーを注文し、席から定点観察する。
どう考えてもホテル側は今日の送迎を忘れている。Uberを呼ぼうと立ち上がったその瞬間、日本語で話しかけられる。どうやら、待ち合わせている日本人観光客と間違えられたようだ。「違いますよ」と事情を説明すると、親切にもホテルに電話してくれた。助かった!私が使っているeSIMはデータ通信専用で、通話ができなかったのだ。やはり、ホテルは送迎のことを完全に忘れていたらしい。
ホテルに到着すると、フロントの人に「本当に申し訳ありませんでした!」と平謝りされた。

Day 0:大会集合場所のホテルへ — 2024.8.31
朝はホテルの敷地内を散歩したり、のんびり過ごす。そして、ここから数キロ離れた集合場所のホテルへ移動する。歩けなくもない距離だが、治安を考慮し、車を利用することにした。
「ナイロビ市内の移動は絶対に車。建物の入り口までつけてもらうこと」友人たちに強く言われていたので、素直に従う。
昨日の送迎トラブルもあり、チェックアウト時に「ぜひ私共の車で送らせてください。もちろん無料です」と申し出があった。さらに、フロントマネージャーがやってきて、手土産を差し出す。「中はチョコレートです。ぜひご賞味ください。」ここまで丁寧に謝られると、逆に恐縮してしまう。いや、むしろ、次に来た時もまた送迎を忘れてもらってもいいかも…なんて。
送迎車はトヨタの日本車。ケニアでは日本の中古車が人気らしい。車内の表示もナビも日本語のままだったが、ナビは使っていなかった。中古とは思えないほどきれいな車だ。
集合場所のホテルに着き、チェックイン。部屋でのんびり過ごしながら、大会スタッフと参加者のグループチャット(WhatsApp)を眺めていた。すると、ある参加者の投稿が目に飛び込んできた。
「ホテル近くの店に買い物に行く途中、数百メートル歩いたところでiPhoneを盗まれた」
何度も読み直した。英語の意味を履き違えたのかと疑った。ホテルから数百メートルの場所で、囲まれて盗難…?治安、悪すぎる。
今回の目的はレースに集中すること。余計なリスクは避けようと決めた。
Day 0:キャンプ地移動 — 2024.9.1
いよいよキャンプ地への移動。早朝、ホテルのロビーに集合し、複数台の車両に分かれて移動する。ここで日本人選手たちと「はじめまして」「お久しぶりです」と挨拶。2016年のサハラマラソン、2022年のジョージア・南極のレースで一緒だった人たちとも再会した。
車内でアジア系の選手と会話をしていると、共通の知人がいることが判明。2022年のアタカマ砂漠で一緒だったカレンだ。「ステージレースに出る人たちって、初対面でも必ず誰かしらの共通の知り合いがいる」
ナイロビの朝は、霞がかった空の下、排気ガスのにおいが混じった空気が漂っていた。都会のナイロビの市街地を抜けるとキャンプ地への道中は、道端には露店が並び、朝の賑わいを見せていた。
別の車両には、2023年のサハラマラソンで一緒だった台湾人のトミー、ルーマニアのレースで知り合ったフランス人のアレサンドロ、今年セネガルで走ったイタリア人のジュゼッペが乗っている。キャンプ地での再会が楽しみだ。
そして、レース主催者のクリスとスタッフのウィルとは2022年のジャングルマラソン以来の再会。「ジャングルマラソンをリタイアしたとき、『2年後に戻ってくる』って言ってたのに、結局こっちに来ちゃった(笑)」そう伝えると、クリスは笑って言った。「いいよ、とにかくここに来てくれたんだから。」
この日は装備チェックとレースブリーフィング。どんな動物たちが待っているのか。アフリカの大地に足を踏み入れるその瞬間まで、胸の高鳴りは収まらない。

Day 1:レワ野生生物保護区 — 37km / 獲得標高 787m / 8:00 スタート

今日は、ケニアの中央部に位置するレワ野生生物保護区からレースが始まる。ここは、ゾウやキリンなど、ケニアを象徴する野生生物が手つかずの自然の中でのびのびと生息している場所だ。
昨日、車でこの保護区内のキャンプ地へ向かう途中、窓の外には野生のシマウマ、ゾウ、キリンなどの野生生物が悠然と佇んでいた。その光景に思わず息を呑み、胸が高鳴った。
この興奮をどう表現したらいいだろうか。仲間たちはスマホやカメラを手に取り、夢中で撮影を始めた。が、私はそれをしなかった。レースが始まれば、もう車窓越しではなく、自分の足で大地を踏みしめながら動物たちと対峙できるはずだ。その時の方がもっと躍動的な瞬間を切り取れるはずだと思ったのだ。
レースが始まる前の日課として、GPSを受け取る。

ペルーのジャングルウルトラの時と同じものだ。地味に大きいし、重い。確か、SOSシグナルは一旦イギリスのレース主催会社のオフィスに行ってから、現地の大会本部に行くってやつだよな。大丈夫かね?野生動物に襲われそうになった瞬間にこのGPSのSOSボタンを押してももう手遅れではないのかね?だが、このレースはコース上に野生生物を密猟者から守るレンジャー達が配置され、同時に選手の安全にも目を光らせている。これが少し安心材料だ。
レース前のブリーフィングでコースの説明が行われた。何回かコミュニティを通るが行けば分かるとレースディレクターのクリスは言う。コミュニティって?
本日のコースのハイライトは「ライオンキングの丘」だ。ディズニーの映画やミュージカルを見て、しっかり予習してきたという人もいるらしい。え? 私? もちろん予習なんてしていない。でも、あの有名なシーンくらいは、さすがに知っている。
レースは8時にスタート。参加者たちは一斉に、野生生物が暮らすサバンナの大地へと解き放たれた。
スタートして間もなく、遠くに何か野生生物の姿が見えた。あれは……ガゼルか?

ああ、これ、双眼鏡が必要なやつだ。まあまあ、焦ることはない。これからきっと、嫌というほど野生生物の目の前を通るに違いない。
コースは車の轍の跡に沿って進むだけ。本来ならサファリツアーの車両が走るはずの道を、今、私は自分の足で歩いている。これで興奮せずにいられるだろうか。
そして、クリスが言っていた「コミュニティらしき場所」に入る。ああ、そういうことか。ここは集落なのか。バックパックを背負って目の前を通り過ぎる外国人の集団に、集落の人たちは興味深そうな眼差しを向けている。子どもたちは無邪気に近寄ってきて、お菓子などをねだり始めた。ああ、これは少し鬱陶しいやつだわ。先行する参加者たちがすでに何かを与えてしまったせいで、もっともらえるはずだと期待して近づいてきているのだろう。悪いがそのおねだりは無視するよ。
集落を抜け、緩やかな坂道を登り始める。ふと道路脇に石碑が立っているのが目に入った。そこには、こんな言葉が刻まれている。
「警告:ここは保護地区で入場が制限されています。象やその他の野生生物に注意すること。」

ついに——。ついに、野生生物と対峙する時が来たのだ。
なんだか、とんでもない場所に来てしまった。頑張って登ってきた甲斐があって、目の前には果てしなく広がる壮大なサバンナが広がっている。
その反対側には柵が設けられていて、微かに電流が流れるような音がする。これは、野生生物がこれ以上中に入ってこないようにするためのものなのだろうか?それとも、私たち人間を守るためのものか?
例の「ライオンキングの丘」は、あれか?

目の前に見える丘の頂上には、大きな一枚岩が鎮座している。あのふもとに最後のチェックポイント(CP3)があるなら、きっと間違いない。
やがて、緩やかな下り坂の先に CP3 が現れた。ここからライオンキングの丘を見上げる形になる。しかし、予習をしてこなかったせいか、正直なところ「フーン、あれがそうか」という程度の感想しか湧いてこない。あえて言うなら、「すごい一枚岩だな」、それくらいだ。
ついに——。野生生物と対峙した。
……いや、違う。サイの仮装をしたイギリス人選手、クリスだ。彼はサイがとても好きらしく、サイの保護活動を行う慈善団体への寄付金を集めるために、この仮装で世界中のレースに参加しているという。そういえば、昔、サハラマラソンでも同じサイの仮装で出場していた選手がいた。あれも、クリスだったのか。サイの着ぐるみを着ているにも関わらず、颯爽と抜き去って行った姿には思わず笑みがこぼれた。
本日のゴールまで残り1.5km。
サバンナの広大な風景を撮影しながら、ぼやくこと、ぼやくこと。野生生物との対峙を期待していた初日は、結局コース上にある集落で飼っている家畜と対峙して終了した。でも、明日はきっと違うはずだ。そんな期待を胸に抱きながら、今日のレースを終えた。
Day 2:ボラナ野生生物保護区 — 43km / 獲得標高 1,041m / 7:15 スタート
原典: For Rangers Ultra 2024 / Day 2:ボラナ野生生物保護区(43km)(2025-03-22 公開)

レース2日目。今日は2回に分けてのウェーブスタートで、私は後半のグループだ。舞台はボラナ野生生物保護区。今日こそ、目の前で野生生物に出会いたい。願いは、ただそれだけなんですが?
スタートしてすぐ、遠くにキリンの姿が見えた。
よく目を凝らさないと、木と見間違えてしまいそうだ。でも、間違いない。あれはキリンだ。幸先の良いスタートに、なんだか今日は期待できそうな気がする。そう思うと、胸の奥がじわじわと高鳴ってくる。
と、まさかこれがこの日のピークだったとは、夢にも思わず——。
CP3 へ向かう道中でビデオ撮影をする。
もうね、ぼやきしか出ない。だって、朝一番に遠目にキリンを見て以来、何も見てないんですもの。
過去の参加者たちは口を揃えて、「たくさんの野生生物を目の前で見た。すごくよかった!」なんて言っていた。その言葉を信じて出場を決めたんですけど?これ、詐欺じゃね?……なんて、自分の不運を棚に上げて苛立ってみる。
それにしても、サバンナって起伏が少ない真っ平らな大平原だと思ってたのに、意外とアップダウンがあるじゃないか。人生最大級の体重になってしまった今、上り坂はなかなか堪える。そして、暑い。思っていた以上に暑い。ケニアって、夏の軽井沢みたいな気候だと勝手に思っていた。
遮るものが何もないサバンナでは、直射日光が容赦なく照りつける。

そのせいか、軽い熱中症の症状が出てしまった。嘔吐だ。
吐き気を催し、道路脇の草むらで嘔吐しようとした、その時——。えっ?レンジャーおるやん!しかも、めっちゃ気配消してる! そんなことが、何回かあった。草むらと一体化して、まるで忍者みたいだ。こうやって、常日頃から保護区内の野生生物を密猟者の手から守っているのだろう。危険を伴う、大変な任務に違いない。
軽い熱中症で早歩きのペースが落ちてしまったものの、なんとか2日目もゴール。野生生物は、スタート直後に見たキリンだけ。明日もこんな感じだったら、もうやめようかな。そんな考えが、ふと頭をよぎり始めた。
Day 3:ロルダイガ — 48km / 獲得標高 913m / 6:45 スタート

レース3日目。今日も2回に分けてのウェーブスタートで、私は前半のスタートグループとなった。その前に、レースディレクターのクリスから説明があり、レース中ずっと私たちを警備してくれていたレンジャーたちが、このタイミングでシフト交代するとのことだった。
いつもコース上で会う度に日本語で挨拶してくれた女性のレンジャーさんがいたのだが、この人とも今日でお別れか。寂しいな。ということで、一緒に記念撮影しておいた。
ということで、朝6時45分頃にスタート。レースが始まってから、ほとんど間近で野生動物が見ることができていない。もう今日も同じような状況が続くようなら、レースを離脱しようかなと考える具合である。同じようなことを、日本人選手のMさんも考えていたようだ。スタート前に「僕は今日でレースを離脱しようかと思っている」と口にしていた。
ん?遠くにキリンの姿が見える。間違いない、あれはキリンだ。
やがてそのキリンは、私たちの目の前をゆらゆらと駆け抜けていった。
想像以上に速いスピードで移動していく姿に、思わず息をのんだ。
そのキリンは、ちょうど「今日でレースを離脱する」と言っていたMさんの目の前を横切っていった。「これを見られただけでもう十分だ」と言い、彼はその後のチェックポイント(CP)でレースを降りた。確かに、これが今日のハイライトかもしれないな。
その後は野生動物に出会うこともなく、ただひたすら黙々と歩みを進めていった。CPに着くと、レースディレクターのクリスとカメラマンのキャメロンがいた。私は思わず不満をぶつける。「全然、野生動物いないじゃん! この先も出会えなかったら、レース離脱するからね!」するとクリスはにやりと笑いながら言った。「象がいるじゃないか。」
ちょうどコース上で警備していたレンジャーに聞いてみた。「いるよ、ほら、あそこだ」と指さされたが、やっぱり見えない。よーく、よーく目を凝らしてみると……確かにいた。めっちゃ遠くに。つか、レンジャーの視力どうなってんの??

その後、シマウマも発見。

でも何だろうなあ、野生動物は確かにいるんだけど、とにかく遠い。過去に参加した砂漠仲間たちは「すぐそばで見られた」と口を揃えて言っていたんだけどなあ。
そう思っていた矢先、目の前をガゼル(でいいのか?)の群れがものすごい勢いで横切っていった!
これはすごい迫力。思わず興奮して声が出た。そして再び、遠くに象の姿を発見。

しかし、ズームを目一杯にしないと写真に収められないほどの距離だった。あー、しかも沼か川か知らんけど、膝上までどっぷり浸かったし。
最後のCPから残り8kmほどが、とにかくエグかった。待っていたのは急登である。「サバンナを走るんだからフラットなコースだろう」と勝手に思っていたのだが、実際はアップダウンがかなりある。そして今日のこの急登は、その中でも群を抜いてエグい。ヒーヒー言いながら一歩一歩、何とか登りきった。
ようやく登り切ったと思ったら、今度は下り。これもまためっちゃ急で、勢い余って転倒しないように慎重に足を運ぶ。やっとフラットに戻ってホッとしたところで、後ろから日本人選手のミッキーさんが追いついてきた。
そのミッキーさんの口から飛び出したのは衝撃のひと言。「僕らの後ろにいた選手は、全員回収されたみたいだよ。」
その後、大会車両がやってきた。車の中を覗くと、日本人女性選手たち全員の姿があった。「えっ!?」思わず声が出る。チェックポイントで1人熱中症でリタイアしていたのは知っていたが、残りの選手たちは最後のチェックポイントで「時間切れ」と判断され、まとめて回収されたのだという。
ここで言う「時間がない」とは、暗くなると野生動物が活動し始め、選手の安全を確保できなくなるから。つまり、制限時間オーバーではなく、安全面からの回収だったのだ。
気を取り直して、ゴールまで残り数キロ。ひと足ひと足、歩みを進める。あれ?象がいる。
怪我をして保護されているのだろうか?
まあ、ともかく。前日よりは野生動物の姿を見られただけでも良しとしよう。そんな気持ちで今日を締めくくる。ということで、明日もレース続行ということで。
Day 4:オル・ジョギ — 43km / 獲得標高 517m / 6:45 スタート

この日もウェーブスタートで、当然のごとく前半グループに組み込まれたワタクシ。
今日はケニア最古のサイ保護区のひとつ、オルジョギ保護地区を通り抜ける。広さ58,000エーカーの大地には、ゾウや残存するグレービーシマウマの15%、さらに40頭以上のサイが生息しているという。……これは期待していいのか?
6時45分、スタート。今日のコースは、乾いた川床、浸食で削られた渓谷、そして赤土の塔が立ち並ぶ大地。うわー、すごいところに来てしまった。

ゆっくりと川床へ降りていく。
自然の力って、ほんと圧倒されるわ。やがて水辺に到着。
「水辺なら野生動物が集まっているはず」と辺りを見回すが、全くその気配がない!
ん? 前方で選手たちが立ち止まっている。何かあったのか?保護区の柵(有刺鉄線)の向こうに サイ がいた!
更に進むと、今度は柵の外側にレンジャーと一緒に サイの子ども の姿が!
その姿を写真やビデオに収めようと、ランナーたちが子サイの周りに群がっていく。
こ、これは……。昨日キャンプ場にゾウを連れてきたことと言い、野生動物が全然近くで見られないとぼやいていた私たちへのサービス? それとも仕込みなのか?
しばらくすると、後からスタートしたランナーたちが次々と追い抜いていく。しかし、いつも真っ先に抜いていくはずの台湾の超有名人ランナー、トミーがこの日は2番目に登場。「めっちゃ子サイと写真撮ったよ」と言いながら軽快に走り去っていった。順位争いしているはずなのに、余裕だな。
と、この日の野生動物のピークは序盤のサイだったのでは?と思うくらい、その後は特に何も起きない。広大なサバンナを、ただ黙々と歩き続ける。
すると、既に先に行ったはずの、初日にサイのコスプレで走っていたイギリス人ランナーのクリスが立ち止まり、レンジャーと遠くを眺めながら立ち話をしている。近づいてみると、「ほら、あそこにサイがいるんだよ」と言うではないか。「……え?(全然見えないんですけど?)」遠くにかすかに何かが見える気もするが、私の視力ではそれが限界だった。
「So beautiful….」と、クリスのサイ愛が炸裂。「だったら、今度サイのコスチューム着て、日本のマラソン大会……そうだな、大阪マラソンを走ってみたらどう?」と提案してみると、かぶせ気味に「いいね!」と即答してきた。「ま、その話はレース後にでもゆっくりしようか。」そう言いながらも、まだ立ち去る気配のないクリスを横目に、私は先を急ぐことにした。
いよいよ本日のゴールまで残り数キロというところで、2016年のサハラマラソンでご一緒した寺田氏と合流し、一緒にゴールを目指すことに。
今回、このレースには寺田さんだけでなく、村田氏、サトミさんも参加している。2016年サハラマラソン組がそろって出場しているのだ。考えてみれば、あれ以来かな?同じレースで顔を合わせるのは。(あ、サトミさんとはチェンマイのトレランで一度一緒だったか。)
寺田氏と積もる話をしながら歩いていると、あれ?ゾウじゃない? なんとゾウの群れを発見!思わず写真を撮りまくった。


写真で見ると遠くにいるように見えるが、実際にはそこそこ近い距離にいたのだ。
って、感じでレース4日目が終了。いよいよ明日で最後だ。
Day 5:オル・ペジェタ — 45km / 獲得標高 417m / 6:45 スタート

この日もウェーブスタートで、前半グループからの出走となった。
最終ステージは、雄大なケニア山を望むオル・ペジェタ保護区を通るという。さて、野生動物を間近で見ることはできるのだろうか。コースの難易度などどうでもよく、私の関心はもはやそこにしかない。
6時45分スタート。このステージ前半は地元の村々を抜けていく。レース初日にはお菓子をねだる子どもたちが近寄ってきて、正直ちょっと鬱陶しかったのだが、今日も同じようなことがあるかと身構えていた。しかし、それは杞憂に終わった。
そして、オル・ペジェタ保護区に入っていく。

遠目ではあるが、シマウマの姿を確認できた。

最終日にこうしてシマウマが見られるのは嬉しい。
ウキウキしながら歩いていると、前を歩いていたカップルの選手が突然、後ずさりしているではないか。「え?何事?」と思ったら、彼らの目の前に サイ がいた。うわっ!マジか!私も近くで見てみたい(昨日も見たくせに)。そう思って足早に彼らのところへ向かった。
すると、どこからともなくヘリコプターが現れ、ホバリングしながらサイを遠くへ追いやってしまった。

あー、なるほどね。こうやって大会のヘリコプターが事前に選手に危害を加えそうな野生動物を遠くに追いやっていた訳ね。ありがたいことではあるが、複雑な気分だ。
そして、彫刻のように静止してこちらを見ているガゼル(でいいのか?)

いや、ほんと動かないねえ。

この間みたいに、サバンナを駆け抜ける躍動感ある姿を見たかったんだが。
最後のチェックポイントでは、ジョージアや南極で一緒だったワダ氏、2016年のサハラマラソンで一緒だったサトミさんら、愛知県軍団(?)と合流し、一緒にフィニッシュラインを目指すことにした。と言うのも、ワダ氏が「フィニッシュラインのそばで赤道を通る」というので、じゃあワダ氏に案内してもらおうっていう算段だ。
と言うことで、日本人選手が5人固まってワイワイとサバンナを歩く。遠目にバッファローらしき群れが見えた。

もうちょっと近くで見てみたいというのもあるが仕方がない。野生動物相手だから何が起こるか分からない。適度な距離感が必要だ。
で、結局、赤道を通ることなく(翌日、ナイロビへの移動中にあっさり通過)、日本人選手5人でフィニッシュラインを超えた。
振り返り
「サバンナで野生動物と対峙する」という期待値の高さに対し、実際は想像よりずっと遠くにしか見えない、もしくは大会ヘリで遠ざけられるシーンも多かった。とはいえ、Day 3 のキリンとガゼルの群れの疾走、Day 4 のサイの子ども、Day 5 のシマウマとサイなど、忘れがたい瞬間も確実にあった。
特筆すべき点:
- レンジャーの存在感。コース脇の草むらに気配を消して佇み、選手と野生動物の双方を守ってくれている
- 「時間切れ」が制限時間オーバーではなく、夜行性の野生動物から選手を守るための安全管理判断 という独特の運営ルール
- 大会収益と参加者の募金がレンジャー支援に充てられる という、走ることそのものに社会的意義がある構造
- 出場枠100名のうち20名が日本人。砂漠仲間の再会の場としても機能する
これから挑戦する人へ:
- 直射日光と暑熱対策は必須。「夏の軽井沢」イメージで行くと熱中症になる
- サバンナは意外とアップダウンがある。装備の軽量化と脚作りは重要
- 野生動物との距離感は控えめに見積もる。「目の前で対峙」より「双眼鏡で観察」が実態に近い
- ナイロビ市内の治安は本当に悪い。移動は必ず車、建物の入口まで横付け、ホテルの数百メートル先でも徒歩は避ける