出典:本レポートは note.com の Rena 氏(@rena_fr)執筆のマガジン「ナミブレース 2022」を、著者の許諾を得て転記しています。再利用時は必ず原典 URL と著者名を併記してください。
練習・準備
Namib Race って?

Racing The Planet 主催の 4 Deserts シリーズ第1戦。世界最古のナミブ砂漠を舞台に、6ステージ・総距離 250km を 7日間で走破する。
私にとっては 4 Deserts Grand Slam Plus 挑戦の幕開けとなるレースだ。サハラマラソンばかり出続けていた私が、クリスおじさん(日本在住・ウェールズ出身の猛者)から「世界にはもっとすごい景色があるんだから、他のレースにも出た方が良い」と背中を押されたのが発端である。
初めての Racing The Planet 主催レースなので、必須装備も含めて、振り返って確認するための覚書として記録しておく。
主催者・公式情報
- 主催: Racing The Planet
- 公式: Namib Race | Racing The Planet
- 装備リスト PDF(2022年版): Equipment List
渡航ルート(コロナ禍)
日本からの直行便はなく、最低でも2回のトランジットが必要。当時のメジャールートだった南アフリカ経由を避け、ルフトハンザ航空のフランクフルト乗継 を選択。復路でドイツのレースのサポート業務もあるし、ちょうど良かった。
- 東京(羽田)→ フランクフルト 約14時間(ロシアのウクライナ侵攻の影響で北回り)
- フランクフルト → ウィントフック 約10時間(アフリカ大陸縦断)
- ウィントフック → スワコプムンド シャトルバス約4時間


日本から集合場所のスワコプムンドまで 約35時間。海外旅行で初の長距離移動。
コロナ禍の入国制限
- ナミビア:ワクチン接種証明があればOK(PCR陰性証明書不要)
- ドイツ(トランジット):抗原検査またはPCR検査(搭乗48時間以内)の証明書、もしくはワクチン接種証明書
- 日本(帰国時):出国前72時間以内の検査証明書提出、ワクチン3回接種証明で待機なし。フランクフルト空港内 CENTOGENE社の検査センター(事前登録・予約推奨)
装備に関して — サハラ装備からの追加分
サハラマラソンの装備をほぼ流用できるが、Racing The Planet ならではの 新たな買い足し が必要なものが多い。
今回新たに購入する必要があった必須装備
- WATERPROOF BAG (35L) — Sea to Summit Lightweight Dry Sack 35L(ジャングルでも使えそう)
- RED FLASHING LIGHT — 赤点滅ライト(オーバーナイト用)
- SURVIVAL BIVVY BAG — SOL ヒートシート Closedタイプ。サハラのブランケットでは不可
- LIP SUNSCREEN — 日焼け止めリップクリーム
- BLISTER KIT — アルコール消毒シート×10、安全ピン×2、紙テープ×1、エラスティックテープ×1、ハイドロコロイド絆創膏×5
- COMPRESSION BANDAGE — 幅7.5cm×長さ4.5m以上
- WATERPROOF JACKET / RAIN PONCHO / WARM HAT / GLOVES — サハラでは持っていかないが必須
- NATIONALITY PATCHES / RACINGTHEPLANET PATCHES — 国旗パッチは公式ストアで購入、RTPパッチは送付される
- PRE-RACE MEALS AT CAMP 1(3-5食分) — サハラと違い大会側は用意しない
追加のドロップバッグ
コロナ対策でテント入口を開放するため、夜は冷える。追加の寝袋や小さめのブランケットをドロップバッグに入れる ことが推奨される。1人用テント持参も可能(オプション)。
まじかーーっ。サハラマラソンの開放感あふれまくりのベルベルテントで砂嵐吹きっさらしの中、気温1桁台でも普通に寝ていたのに、それより寒いの?
Racing The Planet 主催レースの必須装備リストは 痒い所に手が届くほどの至れり尽くせり感 がある。ステージレース初めての人はこれを見るだけで大分安心するのではないだろうか。
主催者への提出書類(3月末日締切)
- 医療情報と緊急時の連絡先
- パスポート、保険証(補償内容)コピー
- ワクチン接種証明コピー
- 医師の診断書
- 誓約書への署名
通信
楽天モバイル/ahamo の海外ローミングはエリア対象外。ウィントフーク空港または集合場所の街でSIMカードを購入したが、レース中はほとんど電波が通じない場所 だった。
装備
公式必須装備の他に、特筆事項は以下の通り。
サハラマラソンと共通
- バックパック、寝袋、ヘッドライト2つ、ナイフ、ホイッスル、ミラー、コンパス、カトラリー、日焼け止め、医薬品7日分、安全ピン10本、アルコールジェル、シューズ、靴下3足、タイツ/ショーツ2枚、ランニングシャツ、暖かい長袖、ネックカバー付きキャップ、サングラス、ハイドレーション2.5L、電解質パウダー/塩タブレット、マスク9枚
マットを持って行かなかった後悔
軽量化のためにマットを持って来なかったが、これが大失敗。海のそばのキャンプ地は底冷え がきつく、マットなしで直にシュラフだと底冷えが体に伝わってまったく眠れない。ドロップバッグのブランケットでも足りなかった。
ボランティアで来ていた日本事務局のサンディさん曰く、とある日本人選手は アルファ米を一面敷き詰めて、その上に寝た そうだ。
食事・補給
- セルフサポート形式:7日分(最低14,000kcal)の食料を自分で背負う
- レース前の野営地での食料(3〜5食分)も自前(サハラと違い大会側は用意しない)
- レース中、Racing The Planet レースでは CPで配られる水以外の補給は基本なし
- ただし Day 3 以降の酷暑時は 大会巡回車両からペナルティなしで給水可能(サハラとは異なるレギュレーション)
- Day 5 ロングマーチの CP4 で サプライズのコカコーラ配給 あり
レースレポート
Day 0:ナミビア到着 — 2022.4.27〜4.28
日本から 約35時間 かけてナミブレースの集合場所、スワコプムンドに到着した。


ウィントフーク到着

入国審査の行列はできていたものの、窓口がたくさんあったので列はスイスイ進む。これは予想外だった。何となくアフリカの人は仕事が遅いイメージがあったのだが、すみませんでしたっ。
検疫はワクチン接種証明の確認のみ。市町村発行の紙のワクチン接種証明(英語併記)のコピーを見せたら、すんなりOK。
スワコプムンドへのシャトルバス
空港から集合場所の街、スワコプムンドまではシャトルバスで 約4時間 の旅。

窓から見える景色は一面サバンナ。野生のキリン を2頭ほど目撃。すげえ、野生だよ。動物園にいるやつじゃないんだよ、なんか妙なところでじわーっと感動する。

スワコプムンド地区に入ると、景色がサバンナから見慣れた砂漠の景色に変わる。
コロニアル建築のホテルとPCR検査


集合場所のホテルに到着。長かった。
本日のメインイベントはレース前の PCR検査。日本人選手5名で合流して受ける。「これで陽性になったら目も当てられないわ……」と祈りながら、夕ご飯を共にして就寝。

Day 0:キャンプ地移動、テクニカルチェック — 2022.4.29〜4.30
キャンプ地移動 (2022.4.29)
ホテルチェックアウト後、スワコプムンドの街をぶらぶらお散歩。現地SIMカード を入手し、ビーチでのんびりランチタイム。


これから1週間レースで砂漠を彷徨うとは思えない雰囲気だ。日本からの参加者Iさんが 釣り に挑戦するというので、その様子をしばらく眺める。ナミビアに釣り道具持ってきているって、やっぱりこの界隈の人たちは何かがおかしい……(笑)。
集合時間の15時前にはホテルに戻るが、ロビーでまだみんなリラックスした雰囲気でまだ出発する気配がない。なんだかんだで16時頃にバスでホテルを出発。
初日のキャンプ地はバスで40分ほどのところ。道中で ラクダの大群 を見たり、浜辺では フラミンゴの大群 を見たり、レース中も何かしらの野生動物が見れるんじゃないかと期待が高まる。
途中でバスから4WD車両に乗り換え、キャンプ地に到着。

ボランティアスタッフが太鼓を叩いたり踊ったりで、熱烈歓迎。否応無しにテンションが上がる。

寒すぎた初夜
やばい、寒い、めちゃくちゃ寒かった。
テント自体はサハラマラソンのベルベルテントみたいな吹きっさらしのものではなく、ちゃんとしたやつ。コロナ対策で入口を開けっぱなしにしていても気にもならなかったのだが、問題は 地面。
軽量化のためにマットを持って来なかった。サハラマラソンみたいに石ゴロゴロの場所にテントを立てるとは思えず、多分マットなしでも寝れるだろうと思っていたのだが……。
海のそばのキャンプ地は底冷えする。マットなしで直にシュラフで寝ると、その底冷えが体に伝わり、ほんと寒かった。ドロップバッグに預けていたブランケット(ルフトハンザ航空のブランケット頂いちゃった)でも間に合わなかった。
こりゃやばいわ。何かしらの対策を練らないと……。
テクニカルチェック (2022.4.30)
朝からはレースディレクターによる大会概要説明。

ここ2年ほどメールでやり取りしていた人たちとようやく対面でき、なんか色々と感慨深い。後に続くレースでもよろしくお願いシャス。
その後、ちょっとカリフォルニアのサーファーっすか?って感じのメディカルチームのヘッド、そして、ジョークが一味効いているチェックポイントのまとめ役の話が続く。

コースディレクターが今大会のコースを地べたに書いて説明。「今までとは違うコースになるそうで、ずっとやってみたいと思っていたコースだ」とのこと。5日目には 龍の背中に乗ったかのような Dragon's Back が圧巻だぞと力説されてはる。

このレースでは ロードマップみたいなものが配られない(簡単にCP間の距離、高低差、コース概略を記載した コースノート が配られる)。ロストした時はマジでやばいやつだな、必須装備のコンパスも地図がなければ使いようがない。まあ、最悪、西を(海を)目指していけばいいか……。

テクニカルチェック自体は、スタッフが必須装備を読み上げるので、それを見せるという形。1つ1つを細かくみられることはなかった。食料に関してはドクターがチェックするということで、あらかじめ食事のカロリー表を用意していたのだが、「うん、いい感じでまとめているね。」と感想を言われただけで終わった。
参加者全員PCR検査は陰性、テクニカルチェックも問題なくパス。明日のスタートラインに立てる!
Day 1:Across The Salt Pans — 38.9km / スタート 8:30
ブルブルブルッ!あまりの寒さに夜中に何度も目を覚ました。明日以降もこのような状態だとちょっとまずいな。
朝のキャンプ地は霧が立ち込めていて視界不良。スタートは 8時の予定だが、濃霧でコース上のマーキングが見えない可能性があるので、8時半に遅らせるとアナウンスがあった。

「3、2、1、Start!」の掛け声と同時に選手たちが一斉に走り出す。最初から最後まで歩いてやると、ウォーカーを決め込んでいた自分まで思わず釣られて一緒に走り出してしまった。肌寒かったので走っていた方が良いかな、と。

塩田から砂浜、そして乾燥河床へ
広大な塩田の合間をひたすら走る。本当であれば初日は様子見でペースを落とした方が良いのだけれど、まあいずれ疲れて勝手にペースが落ちるだろうと、走れるだけ走ってみることに。結局、CP1到着まで7-8分/kmくらいのペースでずっと走ってしまった。
CP1を抜けてからはしばらく 砂浜ラン。後で聞いた話だと、ここで フラミンゴの大群 を見たというランナーが何人かいたが、残念ながら私は見ておらず……(涙)。
砂浜ラン、ほんとムカつく。ペースが落ちて、「早く砂浜終われ、終わるんだ!」と心の中で念じながら、早歩き状態に。ようやく砂浜を抜けて、内陸へ入っていくコースになり、再び塩田へ。ここでまた少し走れるようになったので、走ってみる(←私にしては奇跡w)。

CP2を抜けると、ガラッと雰囲気が変わってしまった。雨が降る時期には川になると思われる場所だが、今は 乾いた River Bed(河床)。川底の泥が乾いて柔らかくなっている、このような足場を私は「モフモフ君」と呼んでいる。
あー、先月のサハラマラソンを思い出すわぁ。
CP2からゴールまではこんな感じで乾いた大地をひたすら歩くのだが、足場が変化に富んでいて、モフモフ君のみならず、カッピカピに固まった分厚い屋根瓦みたいな土の塊 が一面にあり、乗ったらグラグラしたり。
ここの辺からガクンとペースが落ちる(というか、それまでが走ったりしちゃったから早すぎたのだ)。結構な数のランナーに抜かれてしまうが、まだ初日なので気にしない。
ゴール
なんだかんだで、約39kmを 7時間半くらい かけて、17時半頃にゴール。本日の制限時間は19時。

最終ランナーをお迎えに出て、初日はなんとか無事に終わった。肩がめちゃくちゃ痛かった。今年から新しくしたレイドライドのザックが自分に合っていない気がする。
明日は41kmって、ほぼほぼフルマラソンやんっ!
Day 2:Dune Heaven — 41.3km / スタート 8:00
2日目の朝、キャンプ地が変わり、海岸から離れたおかげで マットなしでも底冷えすることなく いい感じの睡眠が取れた。コロナ禍でのレースということで、通常8人で1テントなのに 日本人選手3人で贅沢に使えている のはありがたい。
身支度を済ませて、7時半にブリーフィング。

まずは、第1ステージのリザルト発表。トップでゴールしたのは スイスのラインホールド選手。ウィントフック行きの機内で一緒になり、私が持っていたサハラマラソンのグッズを見て、「(サハラマラソンは)いいレースだよね。」と声をかけてくれた人物。

この時、まさかこの人とその後 アタカマ砂漠、ゴビ砂漠、ルーマニアの山の中のレース と度々再会するとは夢にも思っていなかったけど。
1位の選手、男女それぞれに 黄色のリーダーゼッケン が渡される。おー、これが大会写真なんかでよく見るリーダーズビブか!
砂場祭り、そして大砂丘へ
8時スタート。サハラマラソンと違って、きっちり時間通りにスタートする のは素晴らしい。
今日は「Dune Heaven」というくらいなので砂丘てんこ盛りコースらしい。もうスタートしてから既に砂場だ。砂場祭り。

世界最古の砂漠というナミブ砂漠はとにかく美しい。砂丘群を横目に歩みを進める。レースでこんな美しい風景の中に溶け込めるなんて幸せ者だなあ と、喜びを噛み締めながら歩みを進める。
って、この大砂丘を登るんですか?!

嗚呼、サハラマラソンのメルズーガ大砂丘を彷彿させるではないか……。大砂丘は遠くから眺めているのが一番良い わけで、自分がそこを自分の足で登ったり降ったりするのは「地獄」以外の何者でもない。
覚悟を決めて、一歩踏み出す。茨の道も一歩からだ。

こういう時は 下を見て、一歩一歩確実に足を前に出す。進行方向は見ない。下手したらあまりの果てしなさに絶望を感じるから。もし下を見るのが飽きたなら、歩みを止めて横か後ろを振り向く。こんなすごいところに来ているんだー と心が震えるほど感動し、次の一歩につながる。
延々に大砂丘群のアップダウンが続くのかと思ったら、この大砂丘の登り、降り1回で終わって拍子抜け してしまった。
無事にゴール。この時点で日本人選手5名のうち、昨日今日と2名がDNF になっていた。
Day 3:The Vast Open Namib Desert — 37.5km(実走 約32km) / スタート 8:00
8時スタート。今日のコースは更にナミビア内陸部に入っていくので、気温上昇が予測された。

まずは砂場から。美しい砂丘群を横目にひたすら砂場を歩き続ける。

ビデオジャーナリスト・マイケルの初インタビュー
すると、今大会の映像撮影担当、ビデオジャーナリストの マイケル がビデオカメラ片手に待ち構えていて、インタビューが始まった。で、その内容が彼の期待通りだったらしく、公式ビデオに採用 されていた。
しかし、顔は日に焼けて大惨事状態だし、軽い放送事故じゃないのか?このビデオジャーナリストのマイケルと、これから1年間ずっとレースを共にする とはこの時は思ってもいなかった。

ドロブ国立公園、酷暑、無限給水
線路を渡り、ハイウェイが上を通っているトンネルを潜る。そこは ドロブ国立公園 への入り口だった。


強い日差しを遮るものが何もない。しかも、内陸部に入っていくので 気温がどんどん上昇 していく。他のランナーたちのペースが明らかに落ちてきているのがわかる。昨日まで私の前の位置にいたランナーたちが私にどんどん抜かされていく。
私は前年(2021年)10月の最高気温50度越えのサハラ砂漠を体験しているので、まだこれはマシな方だと思えた。

気温がかなり上がっていることもあり、コース上の巡回車両と頻繁に出くわす。その度に水はいるか聞かれていたが、大会車両からCP以外の場所から給水を受けたらペナルティと、サハラマラソンのレギュレーションと同じだと思っていたので給水を断っていた。
しかし、あまりにも聞かれるため、「もしや?」と思い、「ここで水もらってもペナルティにはならない?」と聞いてみたら、「ならないよ」とあっさり。
えーーーっ!!これはもうこのレース頂いたわ!!
ペナルティなしで 無限給水 であれば、頭にも脚にもかけながら、冷却しながら歩き続けられる。熱中症のリスクが大きく減ったわ。余裕だわ、余裕。
突然の打ち止め
CP3を抜けて5-6kmくらい歩いた所にテントが設置されて、大会スタッフが何人かいるではないか。ああ、暑くなったから急遽、新たに給水ポイントを作ったのかなと思いながら近づいていくと、
「今日のゴールはここよ。」
え?何?どういうこと?
あまりにも暑過ぎて、これ以上のレース続行は危険と判断されたらしく、約32km地点でレース打ち止め。ここからは車でキャンプ地まで搬送されてしまった。
後から聞いた話だとこの日は気温50度越え。
キャンプ地までの車の中でイタリア人選手2人が「サハラマラソンより過酷」と言っていたが、彼女らは気象条件、コースに恵まれていた2019年の参加だ。いやいや、2021年のサハラマラソンはこんなもんじゃなかった。
何だか不完全燃焼なんだけれども、主催が変われば、レースのルールも変わる。仕方がないよね。
この日、トップでゴールした モリモリ はちゃんと37.5km最後まで走ったらしい。「でも、残り5kmがほんとツラかった。」と言っていたので、まあカットされても仕方ないか、とちょっと気が晴れた。
Day 4:The Moon Valley — 38.7km / スタート 7:00(1時間前倒し)
前日は酷暑で結構な数のリタイア者が出た。
朝のブリーフィングでは、今日も気温が高くなるということで、特別ルールが発動:
- 1時間前倒して7時にスタート
- Mandatory Stop(強制停止):11時から12時の間の時点で自分に一番近いところにあるチェックポイントで 2時間、必ず停止
日中の一番日差しが強い時間帯はCPのテントの日陰で2時間(強制的に)休憩することになる。
正直、このレース、暑くなればなるほど自分に有利に働くし、巡回車両からペナルティなしで給水できるのであればMandatory Stopなんていらないんだけど、と思った。が、みんながみんな砂漠慣れしている選手ではないし、主催者が選手の安全を最も重視している というのが分かるので、そこは素直に従うしかない。
Moon Valley の絶景
8時スタート。前日までと打って変わり、足場は大小の石があちこちに散乱している Rocky な足場 になった。そして、今大会の見どころの1つである Moon Valley(月の谷) に入った。
朝っぱらから凄い所にきた。絶景だ。行ったことないけど、月面に来たかのような、ここは地球なのかって感じ。

そんな月の谷の中の見晴らしの良い場所にCP1があった。そこには Racing The Planet の日本事務局、今回のレースでボランティアとして参加している サンディさん がいた。

「ここ凄いでしょ?」とサンディさんが笑顔で問いかける。
「(私からしたら)CPが見えたかなってところで、もう私の名前叫んでる人いるんですけど?」 「そう、地元のボランティアの人たちって視力がとっても良い のよ。」
南アフリカから来ているボランティアのアメリアなんて、もう選手一人一人の走り方や歩き方がわかるようになったと豪語しているし。

コースロスト、そして Mandatory Stop
11時が刻々と近づいている。何事もなければ、11時前にCP2を抜けて、CP3で2時間の強制停止になるだろう。そうしたら、ゴールまで残り 9.5km だから精神的にラクだな。
と色々考え事しながら下り道を走っていたら、コースマーキングのピンクフラグをしばらく見ていないことに気がついた。
しまった!コースを外れた!と、後を振り返ると、誰かついてきている。メキシコ系アメリカ人選手の メリッサ だった。
「ピンクフラグ見かけた?」と話しかけると、 「そう言えば……私はあなたにずっとついて来ていただけだったわ。」
来た道を戻る。数百メートル外れただけで済んだのは良かったが、それでも結構なタイムロス。
CP2には11時ちょっと過ぎに着いた。ここで2時間の強制ストップかと思ったら、「もしCP3へ行きたいなら、行ってもいいわよ」とのことで、迷わずCP3まで進むことを選んだ。一緒にCP2に入ったメリッサもCP3に向かうと言う。

CP3に着くと、既に20人くらいテントの日陰で所狭しと休んでいた。適当に場所を見つけて、休憩……するしかない。
CPに入った順番と時間が記録 されていて、2時間経ったら名前を呼ばれて出発を促される。CPで強制停止させられている時間はレースタイムに含まれない。
2時間強制停止。食べるか、寝るか、他の選手とお喋りするくらいしかやることがない。この2時間の長いこと長いこと。
2時間が経ち、私の名前が呼ばれて、レース再開だ。日もだいぶ傾いて来て、暑さも和らいで行動しやすくなっていた。

Day 5:The Long March of a Prospector — 82.2km(短縮約72km) / スタート 8:00
長丁場となるロングマーチのこの日も特別ルールを発動するとアナウンスがあった。
- スタート時間はいつも通り8時
- コースの短縮(10kmくらい)
- Mandatory Stop(最大3時間、自分の好きなタイミングでCP出発OK):11時〜12時の間の時点で自分に一番近い所にあるCPで強制停止
コースの短縮と聞いて渋い顔をしたのが、現時点で総合2位の モリモリ。モリモリは2019年のサハラマラソンで出会って、今年の4 Deserts Grand Slam Plus に私と一緒に挑戦し、しかも 年間優勝を狙っている。
現在、総合1位のラインホールドと 「2秒差」 と僅差だ。今日はモリモリが得意とする長距離での戦い。距離が長ければ長いほど、粘り強いモリモリに有利に働く。さて、このコース短縮がモリモリにとって吉と出るか凶と出るか、神のみぞ知る。
礫砂漠から CP3 へ
8時スタート。礫砂漠から始まる、長い旅となる 約72km のロングマーチ だ。

気温は徐々に上がっていくが、ステージ3の日のようにはめちゃくちゃ暑くはならず、CP1、CP2と順調に通過し、見晴らしの良い丘の頂上にあるCP3で強制停止の時間を迎えた。

ガーミンのバッテリーの持ちに不安があったので充電し、補給食を食べながら考えた。まだ半分も来ていないので、昨日と同じように 2時間滞在 して、日が傾き始めた頃に出発しよう。
コース整備の意外な方法
2時間後にCP3を出発。砂場下りからの、

岩ごろごろの、

そして、再び礫砂漠。ナミブ砂漠もサハラ砂漠と同様にさまざまな表情を見せてくれる。
と、前から誰か走ってくる。え?まさかこんなところを地元のランナーがジョギングするわけないよな?
あ!ピンクフラグにケミカルライトをつけている のか!こういうのって車で移動しながら作業していると思っていたので、まさかの人力での移動 にちょっと驚いてしまった。
CP4のサプライズ・コーラ、夜のCP5
CP4に着くと、いきなりの コカコーラのサプライズ だ。これは全く期待していなかっただけに驚いたし、嬉しかった。ちょうど、私よりちょっと前に着いたここまで抜きつ抜かれつしていた ユダヤ系メキシコ人親子 がいたので乾杯して一緒に冷たいコーラを堪能する。
そして、CP5に向かう途中で完全に陽は落ち、辺りは真っ暗。CP5に着くと、DNFした日本人選手2人が働いていた。

このレースの場合、DNFになるとキャンプ地を離れてスワコプムンドの街に戻るか、最後まで一緒に移動するかの選択 になるようだ。みんなと一緒に移動すると選択した選手たちは、CPでのお手伝いに駆り出されていた。
チェックポイントに日本人いるとホッとするよね。ここにはサンディさんもいた。
真夜中の一人旅、深夜2時のゴール
ここで強制停止だったらさらに楽しかっただろうな〜ともっとゆっくりしていたかったのだが、早くキャンプ地に辿り着いてゆっくり休みたかったので先を急ぐ。
真っ暗な闇の中を一人ぼっちで歩く。今回は50人ちょっとの参加者だったのが、この日までにはもう30人ちょっと位までに減っていた。長いコース上でみんなバラけているので、どうしても一人旅になってしまうのだ。
ゴールしたのは日付を跨いで、翌日の午前2時過ぎ くらいだった。テントに戻ると、当然のことながらテントメイトの2人は戻って来ていて、爆睡していた。
Day 6:休息日 — 2022.5.6
ロングマーチの後は休息日。総合優勝争いをしている モリモリ はロングマーチでは、総合1位のラインホールドと抜きつ抜かれつの展開だったらしいのだが、最後の最後で「一緒にゴールしよう」と提案された そうだ。最初は嫌だと断っていたらしいのだが、結局、一緒にゴールしたと言う。
ということで、総合タイムは 2秒差のまま順位は変わらず。今日、最終日の結果次第では逆転優勝のチャンスはまだあるということだ。
Day 7:Final Footsteps to the Atlantic Ocean — 7.3km / スタート 9:30(ウェーブ)
最終日は 7.6km と短い。そのため、ウェーブスタート が採用された:
- 総合順位下位の人達 10人くらい:9時スタート
- 中間(私を含む):9時半スタート
- 上位の人達:10時スタート
7.6kmくらいなら走っちゃおうかなあと一瞬思ったのだが、結局、テクテクと早歩きで、スワコプムンドの街の外れの 大西洋が見える海岸にあるフィニッシュライン を目指した。
上位選手たちの最後の追い上げ
スタートしてから1時間経ったか経たない位に、右側からラインホールドがあっという間に抜き去って いってしまった。チラッと見えた彼の横顔はすごくカッコ良かった。
そして、総合3位のイスラエル人選手、ドゥドゥ が抜いて行った。
あれ?モリモリはどうした?
それからちょっと後に「レナさ〜ん」と私を呼ぶ声がしたので振り向いてみると、モリモリだった。抜き去り際に、「ダメでしたわ〜」と脱力したような声を出して行った。逆転優勝はできなかったか。
フィニッシュ、ヒンバ族のメダル
気を取り直して、私も頑張ってフィニッシュラインを目指すぞ。海岸に出た。そして、だんだんと見えて来たよ。

フィニッシュラインだ!
フィニッシュ地点にはナミビアの原住民、上半身裸の ヒンバ族の女性 がいて、彼女からメダルをかけてもらった。その時になんとも言えない独特の匂いが……。
フィニッシュラインでは既にレースを終えた人達が ビールやコカコーラ、ピザ を頂きながら、お互いの健闘を讃えあっていた。私もその輪の中に混じった。
そして、全員で記念撮影。

更に、2022年の 4 Deserts Grand Slam / 4 Deserts Grand Slam Plus に挑戦する選手達だけで集合写真 を撮る。

これから1年間、各地のレースで再会することになる。まずは 第1戦目のナミブレースが無事に終わってホッとした。
振り返り
結果
- 出走者: 約50名(コロナ禍の影響)
- 完走:6ステージすべて踏破
- ナミブ砂漠で 4 Deserts Grand Slam Plus 挑戦の第1戦 を無事に完遂
このレースの特徴
このレースを通じて感じた特筆すべき点:
- 酷暑時の運営判断の妥当さ。気温50℃超の Day 3 は約32km地点で打ち止め、Day 4 / Day 5 は Mandatory Stop(強制停止)が発動。コース短縮も含めて、選手の安全を最優先に運営される
- CP以外でも大会巡回車両からペナルティなしで給水可能。サハラマラソンとは異なるレギュレーションで、酷暑時の心理的負担が大きく減る
- 海岸キャンプ地の底冷え。日中の暑さとのギャップが想像以上で、寝袋は0℃対応+追加ブランケットがほぼ必須。マットを削るのは絶対にやめておくべき
- コース上のサプライズ。Day 5 ロングマーチの CP4 で配給される 冷たいコカコーラ、Day 6 休息日……このあたりの「ご褒美設計」が秀逸
- ヒンバ族からのメダル授与。ナミビアの文化に触れるフィニッシュ演出
- Racing The Planet の「至れり尽くせり感」。必須装備リストはステージレース初参加者にも親切で、ブリスターキットの中身まで指定がある
- コース整備の意外な人力作業。ロングマーチで遭遇したスタッフは、ピンクフラグにケミカルライトを取り付ける作業を 走って徒歩で こなしていた
これから挑戦する人へ
- マットは絶対に省略しない。海岸キャンプの底冷えは想像以上。寝袋+マット+追加ブランケットで万全の準備を
- 酷暑対策は最重要。電解質、塩タブレット、頭・首の冷却用バフ、白色長袖。事前の暑熱順化も
- 食料は「レース前の野営地での 3〜5食分」も自前。サハラと違い大会側は用意しない
- コースマップは配られない。CP間の距離・高低差のみのコースノートとピンクフラグが頼り。コンパスは飾りではなく実用品なので使い方を確認
- シューズはサイズ大きめ。砂丘・乾燥河床の砂が入る前提で、ゲーター必須
- Racing The Planet 主催レースは時間に正確。サハラ系のゆるさは期待せず、ブリーフィング・スタートはきっちり時間通り
- テントメイト運も大切。コロナ禍で 3人テントになるなど、相部屋の人数次第で快適性が大きく変わる
ナミブ砂漠の絶景、酷暑、底冷え、ヒンバ族のメダル——4 Deserts Grand Slam Plus 挑戦の幕開けに相応しい、表情豊かな初戦だった。次はジャングルマラソン(ペルー)、そしてゴビマーチ代替のジョージア、アタカマ、南極へ。