Stage Race
STAGE RACE HUB
日本語
完走志向

2022年 南極(The Last Desert)参加記録

@rena2023-01-03南極 · Nov 7d

Racing The Planet 主催・4 Deserts シリーズ最終戦「The Last Desert(南極)」。南極クルーズ船 m/v Hondius を拠点に、南極半島・サウスシェトランド諸島の上陸地で6日間にわたり周回コースを走破。雪上ランへの戸惑い、ジグザグ急斜面、ペンギンの5mルール、クジラ・シャチ・氷河の絶景、そして雪に靴を持っていかれるハプニング——足掛け3年の 4 Deserts Grand Slam Plus プロジェクトの最終章を完走、年代別優勝&Spirit Award(特別賞)受賞の記録。

Attachments — 寄稿者の参考資料
Link
著者note マガジン「南極(The Last Desert) 2022」
Rena 氏による全9記事まとめ(Day 0:南極を走るってどゆこと?〜 レース後)
https://note.com/rena_fr/m/m1576a0447280
Video
公式YouTube「The Toughest Stage so far」(Day 4 ダンコ島)
Day 4 のジグザグ急斜面ステージ。Rena 氏の「もう当分雪見たくないわ!スキーもスノボも絶対やんねえ!」のぼやきが収録されている
https://www.youtube.com/watch?v=duq5nyIFLzY

出典:本レポートは note.com の Rena 氏(@rena_fr)執筆のマガジン「南極(The Last Desert) 2022」を、著者の許諾を得て転記しています。再利用時は必ず原典 URL と著者名を併記してください。

2022年11月、ついに 足掛け3年の 4 Deserts Grand Slam Plus プロジェクト最終章、南極を走ってきた。Racing The Planet が主催する4戦のうち、Namib・Atacama・ジョージア(Gobi の代替)・Lapland(Plus 用 Roving Race)を経て、最後に残されたのが The Last Desert(南極)

舞台は南極半島・サウスシェトランド諸島。選手は クルーズ船 m/v Hondius で寝起きしながら、毎日上陸ポイントで設営される 1〜2.5km の周回コース を走る。気象次第で上陸地・スタート時刻はその日まで分からず、吹雪になれば船長判断でレースは打ち切られる。

完走の結果は、6日間(休息日除く)で6ステージを走破、女子40代年代別で1位、特別賞 Spirit Award を受賞、足掛け3年の 4 Deserts Grand Slam Plus プロジェクトもここでフィニッシュ。

練習・準備

Last Desert(南極レース)って?

マガジンサムネイル画像
マガジンサムネイル画像

Racing The Planet が主催する 4 Deserts シリーズ最終戦。Namib・Gobi(年により代替地)・Atacama のうち 2レース以上を完走 していないと出場できない。

砂漠レースの定番フォーマット(衣食住を背負って250km/7日間)と異なり、南極だけは独自フォーマットを採用している。

  • 7日間で250km走破 が目標
  • 誰かが250kmに到達した時点で 全選手の順位が確定(その時点の距離・時間で順位付け)
  • 誰も250kmに到達できなかった場合は 最終日終了時点の距離・時間 で順位付け
  • 2022年大会の 総合優勝者の総距離は236.7km。誰も250kmには届かなかった

なぜこのフォーマットなのか — 南極ならではの難しさ

偏に 南極ならではの気象条件の厳しさ に尽きる。

  • 南極クルーズ船の航路・上陸地はあらかじめ決まっているが、当日の気象条件・上陸地の積雪状況で 上陸取りやめ・場所変更 が起こる
  • 上陸してレースを始めても、吹雪などで天候が荒れると 船長判断で帰船命令 が出る
  • 選手が上陸する30分〜1時間くらい前にスタッフが先に向かい、現地で 1km〜2.5km の周回コース を設営する
  • レース開始まで、距離・高低差・足場は 一切わからない

南極ならではの制限

環境保護の観点から、原則として 南極大陸に食糧を持ち込むことができない。レースという特別事情で許可は得られるが、以下の厳しい制限がある。

  • ナッツ・種子類は絶対に持ち込み不可
  • レース中の食料は 包装を全て剥がしてタッパーに入れる
  • アルファ米などの パウチに入っているものはそのまま持ち込み可
  • サーモにお湯・スープ・コーヒーを入れて持ち込み可
  • 上記をドロップバッグ(Food Bag)に入れて上陸する
  • コース上での飲食は不可 — ジェル補給等は不可
  • フラスクに入れた水分補給のみ可(給水あり)
  • 補給する場合は 上陸時のゴムボートまで戻る 必要があり、時間ロスが大きい

よし、ここで補給するかとゴムボートまで戻って補給し、コースに戻ったらすぐに本日のレース終了って言われて、えええーっ?!みたいなこともあった。

5mルール

南極ならではのルール。コース上にペンギンが乱入してきても、5m以内に近づいてはならない

選択肢は2つだけ:

  • コースから退いてくれるまで 根気強く待つ
  • 大きく 迂回する

大きく迂回するとズボズボと雪に足がはまって大変なので、私はもっぱら待つ派。アザラシがドロップバッグ置いているエリアに乱入した日もあった。

衣食住を背負わないクルーズ船拠点レース

南極へは一般の観光客と一緒に南極クルーズ船で向かう。利用した m/v Hondius は2019年製造のオランダ国籍最新クルーズ船(参考:Oceanwide Expeditions — m/v Hondius)。

  • 寝床は船室(共有)、食事もきっちり3食提供
  • 他の観光客が上陸地でカヤック・登山等のアクティビティをしている間、選手たちはぐるぐる周回コースを走っている
  • レース中に背負うのは大会指定の 着替え・防寒着・安全装備。実際に取り出して使うことはほぼなかった

装備

雪上・極寒条件への対応がすべて。サハラ装備とは別世界。

雪上ランの3点セット

  • 軽アイゼン — 大会指定の Kahtoola マイクロスパイク。国内では入手困難で、アメリカから取り寄せた。初日のアイスバーン化したコースで装着指示が出て以降、雪上ランで大活躍した
  • ゴーグル・サングラスの併用 — グラシエゴーグルは上りで息が上がると曇る。スキーゴーグルも同様。最終的には ランニング用サングラス が使い勝手最強だった。ただし日差し・雪面反射が強い日はゴーグル必須。ゴーグル外して走るとスタッフから注意される(雪面反射で目が焼ける)
  • ゲーター — ファスナーが壊れて邪魔だったので Day 2 以降は外した

レイヤリング(Day 2 以降の正解)

  • 上:ベースレイヤー(モンベル ジオライン)/ミッドレイヤー(カレンジのフリース)/アウター(ファイントラック エバーブレス)の3枚
  • 下:ジオラインの上にパンツ1枚
  • アウターのポケットの開閉、手袋の着脱で ベンチレーション(通風) して体温調整

Day 1 は着込みすぎてシェル下の衣服がぐっちょり濡れていた。「気温の変化が激しい」「動くと暑い/止まると寒い」が南極ランの基本

持参したが使わなかったもの

  • ストック — 邪魔だったので Day 2 以降は不携帯
  • グラシエゴーグル — 結局ランニング用サングラスのほうが使い勝手良好

必須の小物

  • 日焼け止め(雪面反射対策、ブリーフィングで散々注意される)
  • 日焼け止めリップクリーム
  • ダウンジャケット(ドロップバッグ用、レース打ち切り時にコース上で待機する際の保温)

食事・補給

クルーズ船で3食提供されるので「行動食以外」は心配不要。問題はレース中の コース上での飲食禁止 ルールだ。

持ち込み戦略(環境保護ルール対応)

  • 包装を全部剥がしてタッパーに移し替える(行動食)
  • アルファ米のパウチ・サーモの飲み物・お湯は例外的にそのままOK
  • ナッツ・種子類は完全不可

コース上の補給ルール

  • 走りながらの飲食は不可(ジェル不可)
  • フラスクに入れた水分のみOK、給水ありの日も
  • 食べたい場合は 上陸時に乗ってきたゴムボートまで戻る

時間ロスが大きいうえ、補給したら直後にレース終了がアナウンスされる、なんてこともあった。「補給するタイミング」自体がレースの判断要素 になる。

Day 7(ロングステージ)の補給

8時間想定のロングステージはさすがに無補給では厳しい。ただし サーモに入れた飲み物はゴムボートに戻らずに摂取OK という運用だったので、私は以下の作戦を取った。

  • サーモに ホットチョコレート + ウシュアイアで購入した パウンドケーキを細かくちぎって投入
  • 流動食にしてしまえ作戦

(結局レース中に補給することはなかった。)

レースレポート

Day 1:Paradise Bay — 1km 周回、雪上ラン初体験

Unfortunately, the landing is cancelled. The landing site is blocked by huge amounts of ice...

朝4時スタート予定だったが、上陸中止。上陸地周辺に大量の漂流氷で、ゴムボートで安全に近づけないと判断された。

別の上陸ポイントへの移動で午前は解散。午後、Paradise Bay に上陸地を変えていよいよレース開始。運悪く最後のゴムボートに乗ってしまい、上陸からスタートまで15分しかなくドロップバッグ設置・シューズ履き替えで焦る焦る。

Day 1 Paradise Bay の見出し画像
Day 1 Paradise Bay の見出し画像

14時開始、20時までの予定で 1km 周回コース を6時間走る。コースは緩やかな上りとジグザグの下り。約20cmの積雪、コース設定時にスタッフ&先頭集団に踏み固められているはずが、ズボズボと足がはまる。走りづらいというか歩きづらい。

ゴーグル迷走と軽アイゼン投入

上りで息が上がると グラシエゴーグルが曇り コースが見えない。倒れる、雪に足がはまる、戸惑いを隠せない。スキーゴーグル に変えてみたが、これも息が上がると曇る。「ゴーグルいらね!」と外して走ったらスタッフから即注意される。

しかも踏み固められたコースが アイスバーン化 してきた。下りが滑って怖い。ここで 軽アイゼン(Kahtoola マイクロスパイク) 装着指示が出る。

うぉっ、これむっちゃ使えるじゃん!

アメリカからわざわざ取り寄せた甲斐があった。以降、雪上ランで大活躍。

「地面揺れてません?」事件

ジグザグの下りで地面の揺れを感じる。他の選手・スタッフに「揺れてません?」と聞くも「そうかなぁ?」の反応。ガーミンの記録を後で見ると 海の上を走ったことになっていた 。要は 氷の上を走っていた わけだ。

Day 1 ガーミン記録(1km 23分の超スローペース)
Day 1 ガーミン記録(1km 23分の超スローペース)

18時の早期終了

レース開始から4時間後、18時。「今日はここまで、ダウンジャケット出して温まって」と告げられる。20時までではなかったの?速攻でコース離脱、退却の準備だけは速い。

晩のブリーフィングで、天候不良で船長から帰還指示 が出たため18時打ち切りとの説明。船に戻ってシャワーを浴びようとすると シェル下の衣服がぐっちょり濡れていた。着込みすぎ。翌日はレイヤリング変更を決意。

はぁぁぁ、ほんと先が思いやられるぜ。

Day 2:Damoy Island — 2km 周回、絶景に余裕が出る

午前中は Jougla Island 上陸を試みるも、ゴムボート偵察の結果アクセス不可で中止。クルーズ船スタッフが近くのイギリス基地 Port Lockroy に連絡を取り、基地スタッフによる講義の機会があった(聞き逃した……)。

Day 2 Damoy Island の見出し画像
Day 2 Damoy Island の見出し画像

Port Lockroy には 世界最南端の郵便局「ペンギン郵便局」 があり、ハガキ投函のために船内ショップが切手目当ての長蛇の列に。私はハガキは諦めたが、パスポートに南極のスタンプ を押してもらった。上陸してないけど、まいっか、記念記念。

パスポートの南極スタンプ
パスポートの南極スタンプ

伝書鳩任命

レース直前、レースディレクター Mary から「今から重要な話するから、レナはちゃんと日本人参加者に通訳しなさいよ」と圧をかけられる。以降、伝書鳩扱いでこき使われる

吹雪予報のため、視界不良になった場合の対応(ピンクの雪が入った袋のマーキングまで移動して待機 or その場で待機)が共有された。

装備変更が当たる

Day 1 の反省を踏まえた変更:

  • ストック持参せず
  • ゲーター装着せず(ファスナー壊れて邪魔)
  • レイヤリング:ジオライン+カレンジフリース+エバーブレスの3枚
  • ゴーグルではなく ランニング用サングラス に変更

実際は吹雪にならず、南極特有の 強い日差し/曇り/小雪/強風/寒暑の激しい変化 だった。アウターのポケット開閉と手袋の着脱で体温調整することを覚えた。ベンチレーション という概念がようやく身についた。

ペンギンのギャラリー

ペンギンのギャラリー(Photo Credit Racing The Planet)
ペンギンのギャラリー(Photo Credit Racing The Planet)

コースから少し外れた丘の上に、ペンギンの大群が「こいつら何やってんだ?」みたいな顔で私たちを見下ろしていた。勇気あるペンギンは お腹でスライディング しながら私たちのそばまでやってきて、可愛くて仕方ない。

22時まで6時間想定が、結局 21時過ぎに終了。ガーミンを止めるのを忘れたが、まあまあいい感じで走れた1日。

Day 3:Orne Island — 2.5km 周回、雪上ランに慣れる

朝目覚めると Orne Harbour の絶景。Spigot Peak(289m)に登る観光客は朝早くにゴムボートで出発していた。

一面の銀世界
一面の銀世界

「Comin' up」のマット、自分を追い込むモリモリ

レースは16時頃スタート、22時まで6時間想定。約2.5km の周回コース で大きなアップダウンなし。このくらいの距離がちょうどいい。1km 周回だとトップ選手がすぐ追いついてきて、頻繁に道を譲ることになる。

選手の追い越し方にも個性が出る。

  • アメリカ人マット(トップ):2-3m 後ろから「Comin' up」と声をかける。OKと言ってコース脇に避けるだけ
  • モリモリ(2番手):声はかけないが、自分を追い込んでいるハァハァという息遣いが2-3m 後ろから聞こえる

私も自分が追い越す時の声かけに迷うんだよね。マットみたいにカッコよく言いたいけどねえ。

鳥も5mルール?

コース上に鳥が飛んできて止まる。「あれ、鳥も5mルールの範疇?」 と戸惑う。すぐ飛んで行ったけど。

遠くから 氷山が崩れる音 が聞こえる。花火のような、銃撃戦のような音。ドキッとする。

3日目にして雪上ランに慣れてきたのか、走れそうなところは走るようにした。5時間ほど経った頃に終了。距離が稼げて大満足の1日。

Day 3 ガーミン記録
Day 3 ガーミン記録

Day 4:Danco Island — 2km 周回、The Toughest Stage so far

ジグザグ急斜面のキューバビル島

朝はキューバビル島で穏やかな天気。南極の絶景にもう慣れてしまったのか、写真を全く撮っていなかった……(笑)。

午後、ダンコ島へ移動。15時頃から21時までの 約6時間、2km 周回。レース前ブリーフィングで「ジグザグと急斜面を登る」と告げられる。ゴムボートで移動中、目の前の急斜面とジグザグコースがしっかり見えた。

Day 4 Danco Island の見出し画像
Day 4 Danco Island の見出し画像

しかも午前中は穏やかだったのに 雲行きが怪しい

初日は装備とか、雪上を走り慣れていなくて辛かった部分が大きかったけど、2日目、3日目とやってきて、なんか慣れてきたぞってところでこれですわ。

ジグザグジグザグ、急斜面で積雪が深い丘を上る。吹雪いてきて寒い。「これ、レース中止になるレベルじゃね?」と思いながらも、全然中止になる気配なし。

公式 YouTube に名言が残る

コース上のビデオカメラマン マイケル に思わずぼやく。

「もう当分雪見たくないわ!スキーもスノボも絶対やんねえ!禁止だ、禁止!」

これを聞いたマイケル、悴んだ手でビデオカメラの撮影準備を始めた。

The Toughest Stage so far(公式YouTube)

YouTube サムネイルにも「The Toughest Stage so far(今のところ最も厳しいステージ)」とあり、ビデオ内では現在トップを走るマットも「状況は見ての通り最悪だ」と述べている。

ラスト1周のスーパー早歩き

21時前、周回スタート地点に着いたら「もう1周だよ」。後ろを振り向くと、私から後ろの選手たちはもう終わりと告げられゴムボートに乗る準備中

ええええーっ!私が最後なの!?

この時はスーパー早歩きで前を歩く選手に追いつき、追い越しまくった。

Day 4 ガーミン記録(ジグザグ嫌い)
Day 4 ガーミン記録(ジグザグ嫌い)

明日は早朝スタートですって!

Day 5:Petermann Island — 2km 周回、靴脱げ事件&クジラ

とにかく眠い

前日のレースは21時頃終了。船に戻ってシャワー+着替え+晩御飯は22時頃。今朝は4時起き。途中何回か起きてしまい、最悪の状態

Day 5 Petermann Island の見出し画像
Day 5 Petermann Island の見出し画像

レースディレクター Mary が「今晩は船の甲板で BBQ やるわよ」と曰う。モチベーションになればと思って言っているのだろうが、私はそんなに単純ではない(笑)。

ペンギンだらけのコース

7時スタート、お昼頃まで。島の景観・レースコース的にも最高の場所。建物(避難所)の周りはペンギンだらけで、今までは離れたところで見ていたのが、今日はやんちゃなペンギンがコースに乱入してきまくる。何度も5mルール発動。

あちこちペンギンだらけ(Photo Credit Racing The Planet)
あちこちペンギンだらけ(Photo Credit Racing The Planet)

約2km、ひょうたん型の周回コース、多少のアップダウンはあるが前日のジグザグはなく気分的にも楽。

靴が脱げる事件

1周目を終わろうとした下り坂で、スタッフの声援に少しスピードを上げて走った時——

ズボッ!

左足が膝上まで雪にハマる。よくあることだから気にせず引き上げたら、雪の中で靴が脱げた

( ゚д゚)!!!!

すぐ近くで見ていた Mary と スタッフが驚いた表情で駆け寄ってくる。もう一度左足を雪に突っ込んで靴を履き、引き上げたら今度はちゃんと一緒についてきた。

以降、周回で戻ってくるたびに「レナ、靴脱げてないw?」「♪レナは靴を履いている〜♪」と弄られるのである。

クジラと氷河ブルー

コース上で立ち止まり海の方向を見つめている選手が何人かいる。目を向けると、ちょうど クジラの尾が水中に沈んでいくところ。以後、時折クジラの姿(部分的に)を確認できた。

動物達の楽園(Photo Credit Racing The Planet)
動物達の楽園(Photo Credit Racing The Planet)

時折日差しが氷河を照らすと、目が覚めるような美しいブルー真っ青な氷ほど古く、長い年月で空気が抜け凝縮された ものだと帰りのゴムボートで教えてもらう。

ペンギンの雪像とキス指令

コース上でボランティアスタッフの ジョン(アタカマでは奥さんと選手参戦)が、周回ごとに何かを作り始める。最終的に完成したのは ペンギン🐧の雪像、これがよくできている。

カメラマンの ティアゴ が遠くから「レナ、ペンギン(の雪像)にキスしろ」と注文を出すので、はいはい仰せのままに。

5時間ほどぐるぐる回って、今までで一番楽しいコース

Day 5 ガーミン記録
Day 5 ガーミン記録

晩御飯は予告通り甲板で BBQ。ホットワイン とかあるけど、選手はレース中アルコール禁止じゃなかったっけ?まあみんな飲んでるし、今日くらいはいいよねえ。

Day 6:Paradise Bay — 休息日、シャチが船に寄ってきた

Day 6 休息日の見出し画像
Day 6 休息日の見出し画像

朝食後の甲板から見える景色は、快晴・気温2度・無風の穏やかな気候。

よりによって、なんで今日なん….?

選手も含めて多くの人が ゾディアッククルージング に出かけているが、私は「休息日までゴムボートに乗りたくない」ので船で休息を取ることにした。

ラウンジからの眺め
ラウンジからの眺め

100MBの無料 wifi

クルーズ船の 無料 wifi は通信量100MB と ISDN 時代並み(笑)。一瞬で制限に達すると評判が悪い。

  • iPhone のバックグラウンド処理を全部無効化
  • SNS の動画・画像はダウンロードしない
  • テキストだけで運用

結果、夫・友人達とチャット+ Facebook に絶景投稿までできた。100MB でも意外と使える。

シャチが船のそばを泳ぐ

昼食時、船スタッフが「シャチが泳いでる」と駆け込んでくる。最初は見つけられず諦めかけたが、再び甲板に出たら 3頭が船の周りを長時間泳いでいた。すぐそばまで来た時も。

シャチ
シャチ

水族館でしかお目にかかったことがないシャチをこんな間近で見ることができるなんて、いい冥土の土産ができたもんだ。

明日はレース最終日、しかも ロングステージ

Day 7:Deception Island — 2.5km 周回、8時間のロングステージ

ドレーク海峡並みの揺れ

今日の舞台は デセプション島。サウスシェトランド諸島の 活火山を擁する島 で、地熱で雪が溶けた 黒い地面、世界最南端の温泉、灰をかぶった氷河など独特の景観。

Day 7 Deception Island の見出し画像
Day 7 Deception Island の見出し画像

馬蹄形の島で Neptunes Bellows という狭い水路を抜けてカルデラに入る。昨晩から未明にかけてこの水路を抜けるまで激しく船が揺れまくり、2段ベッド上段の私は落ちないか気が気でなく寝不足。

8時間のロングステージ

レースは6時頃スタート、14時頃終了の 8時間ロングステージ2.5km 周回、緩やかなアップダウン、積雪少なく軽アイゼン不要

黒い地面が剥き出し
黒い地面が剥き出し
昼頃には地面の雪もほとんど解けた
昼頃には地面の雪もほとんど解けた

時が経つにつれ太陽が出てきて、地面の雪が溶け、一部の道は雪解け水でびちょびちょ。今までで一番走りやすい足場だった。

カードが強風で飛ぶ事件

3周目を終えて戻り、ザックにつけていた 周回確認のパンチカードを出そうとしたら、ない!

強風で飛ばされたようだ。

  • プラスチックのカードを 南極のどこかに捨ててしまった(環境保護的に大問題)
  • 自分の周回記録の取り方は?ロングステージで何周したか自分で数えるのはきつい
  • スタッフは既に「3周?4周?」状態

カードなしでレース続行となったが気が気でない。が、神は見捨てなかった。次の周回でスタッフが「見つけたわよ!」と私のカードを掲げてくれた。今度こそ強風で飛ばないようザックにしっかり装着。

4 Deserts Grand Slam Plus 最終章を噛み締めて

最終日、初っ端から出鼻をくじかれたが、時間いっぱい周回していれば完走できる

これで1年かけて連戦した 4 Deserts Grand Slam Plus の旅が終わる と思うと寂しい気持ちになった。2019年にやると決めてエントリーしたが、まさか 足掛け3年のプロジェクト になるとは。

3人でゴール

13時頃「あと1周で終わり」と告げられる。後ろを振り返ると、私より後ろの選手達は「これで終わり(=完走)」と告げられて歓喜の声。

うわ、、、また私が最後なんだ、、、。

最終ランナーもいいかと思い直すも、前を歩いていた シンガポール人選手 に追いつき、「あなたが最後になるよ」と告げると「ええええーっ、嫌なんだけど!」と。「じゃあ一緒に歩きましょうか」と並走。さらに前を歩く インド人選手 にも追いつき、3人で一緒にゴール

シンガポール人選手から言われた言葉:

「You have a full of energy.」

そう、この言葉はどのレースでも誰かに言われていた。苦しい時もあるけど、楽しくてしょうがないんだもん。ステージレースは楽しい

Grand Slam Plus Tick! ポーズ(Photo Credit Racing The Planet)
Grand Slam Plus Tick! ポーズ(Photo Credit Racing The Planet)

ああ、レース終わっちゃったなあ……。

Day 7 ガーミン記録(今までで一番長い時間周回)
Day 7 ガーミン記録(今までで一番長い時間周回)

レース後:ドレーク海峡で船酔いダウン、そして表彰式

7日間の緊張の糸がプツンと切れたのか、レース後は 疲労でダウン。さらに 荒れまくるドレーク海峡で船酔い、2日間まともに起き上がれず、食事も取らずに ラウンジのソファで死んでいた

レース後の見出し画像
レース後の見出し画像

狭い3人部屋・2段ベッドの上では戻る気にならず、ウシュアイアまでの航路は開放感あるラウンジのソファで1日の大半を過ごす。スタッフ・選手が代わる代わる声をかけてくれて退屈しなかった。Mary も気遣ってくれ、伝書鳩業務の労いの言葉までもらった。

「明日は11時から(今年1年の)レースドキュメンタリーの上映会、16時からは表彰式だから、日本人選手にちゃんと出席するように伝えといて。」

えええーっ、さすがにそれくらいはわかるでしょ……レース後までは知らんよ。

ドキュメンタリー上映会を欠席、表彰式は出席

起き上がれずドキュメンタリー上映会を欠席。「レナいっぱい出てたよ、良かったよ」と感想を続々もらい、這ってでも見に行けば良かった と後悔。表彰式はちゃんと出席。

  • 総合・女子総合ともに 日本人選手が表彰台
  • 私は 40代女性で年代別優勝(女子総合優勝者も40代だが、彼女は総合台に上がり除外なので実質2位)。南極では年代別トロフィはなし
  • Spirit Award(特別賞) を受賞
Spirit Award(船酔いヘロヘロですっぴん)
Spirit Award(船酔いヘロヘロですっぴん)

Spirit Award は、寒い中長時間立って周回ランナーを見守るスタッフ・ボランティアを少しでも楽しませようと、声がけ・ノリノリでスキップ・声援に調子を合わせて走った姿勢 が評価されたもの。レースを楽しもう!という意図が伝わっていたのが何より嬉しかった

4 Deserts Club と Grand Slam Plus

4 Deserts Club(4砂漠完走者)メダルが授与され、続いて 4 Deserts Grand Slam(同年内4戦完走)達成者 への記念品授与。

4 Deserts Grand Slam Plus 獲得選手
4 Deserts Grand Slam Plus 獲得選手

ここで創業者 Mary の 粋な計らい

  • 4 Deserts Grand Slam 達成記念カップに ビールを注ぐ
  • 中に目隠しで ブドウを1粒 投入
  • 自分のカップを飲み干し、ブドウが入っていた人は Racing The Planet のレース1戦分のエントリー代(50万円相当)が無料

見事にブドウを引き当てたのは ポーランド出身2児のママ選手ユリータ。おめでとう!

盛り上がった表彰式が終わり、あとはウシュアイア港で解散。今年5月からずっと一緒だった仲間とのお別れ、寂しいな。でも、いつかまたどこかのレースで会えると確信している

振り返り

結果

  • 女子40代年代別 1位(年代別トロフィは南極大会では授与なし)
  • Spirit Award(特別賞)受賞
  • 4 Deserts Grand Slam Plus 達成(Namib/Atacama/ジョージア/Lapland/The Last Desert)
  • 完走

このレースの特徴

  • クルーズ船拠点・観光客と相乗り。寝床・3食はクルーズ船から提供される。レース中に背負うのは大会指定の防寒着・安全装備のみ
  • 当日まで何も決まらない。上陸地・スタート時刻・コース距離・高低差・足場——すべてその日の気象次第。コースは選手上陸の30分〜1時間前にスタッフが現地で1〜2.5km の周回を設営する
  • 誰かが250km走破した時点でレース終了。2022年は誰も250kmに到達せず、総合優勝者の総距離 236.7km
  • 環境保護ルール:ナッツ・種子類持ち込み禁止、行動食は包装を剥がしてタッパー、コース上での飲食不可(給水・サーモのみOK)、補給は上陸時のゴムボートまで戻る
  • 5mルール:ペンギン・アザラシに5m以内に近づいてはならない。コース乱入時は待つか大きく迂回するしかない
  • 目の保護はガチ:雪面反射が強烈で、ゴーグル/サングラスを外して走るとスタッフから注意される

これから挑戦する人へ

  • 軽アイゼンは Kahtoola 一択(大会指定)。アメリカからの取り寄せが必要。雪上ランの命綱
  • ゴーグルは複数携行+ランニング用サングラス。グラシエ/スキー/サングラスを試して、その日の状況で使い分ける。曇った時に拭きにくいゴーグルは × 。Day 2 以降は私はサングラス派
  • レイヤリングは Day 1 で必ず失敗する つもりで予備の組み合わせを用意。動くと暑い/止まると寒い、温度変化が激しい
  • ベンチレーション を覚える:ポケット開閉・手袋の着脱で体温管理
  • 行動食はタッパー必須:包装は全部剥がす。ナッツ・種子は完全 NG
  • サーモは「移動式の補給ポイント」:ホットチョコレート+パウンドケーキを細かくちぎって流動食にする等、コース上で摂取できる唯一の補給手段として活用
  • 18時打ち切り・早朝4時起き などスケジュールは流動的。船の食事時間は決まっているので、レース終了が遅いと晩御飯は22時という日もある
  • 休息日はゴムボートに乗らず船で休む のもアリ。最終日のロングステージとドレーク海峡の船酔いに備えて温存
  • ドレーク海峡の復路は地獄:船酔い対策の薬・キャンディは必携。2段ベッド上段は避けたい
  • 5mルールは本気のルール:ペンギンの可愛さに負けてはいけない
  • 写真をたくさん撮る よりも、目に焼き付けるべし。Day 4 あたりで「南極の絶景にもう慣れた」状態になる(笑)

4 Deserts Grand Slam Plus 達成の感想

2019年にやると決めてエントリー、まさか 足掛け3年のプロジェクト になるとは。コロナ禍で延期・代替地開催(Gobi → ジョージア)・船便制約と苦労の連続だったが、Namib・Atacama・ジョージア・Lapland と4戦を経て、最後の南極でフィニッシュ。

You have a full of energy.」とレース仲間に言われ続けてきたシリーズも、ここで一区切り。苦しい時もあるけど、楽しくてしょうがないんだもん。ステージレースは楽しい。それを Spirit Award という形で大会側が評価してくれたのが何より嬉しかった。

砂漠・サバンナ・極地と巡ってきたステージレースの旅は、ここから次のフィールドへ続いていく。

Gallery — 写真と動画
マガジンサムネイル
Photoマガジンサムネイル
Port Lockroy のペンギン郵便局でもらった、パスポートの南極スタンプ
PhotoPort Lockroy のペンギン郵便局でもらった、パスポートの南極スタンプ
丘の上から見下ろすペンギンのギャラリー(Photo Credit Racing The Planet)
Photo丘の上から見下ろすペンギンのギャラリー(Photo Credit Racing The Planet)
休息日にクルーズ船のすぐそばを泳いでいた3頭のシャチ
Photo休息日にクルーズ船のすぐそばを泳いでいた3頭のシャチ
Day 7 デセプション島。地熱で雪が溶け、黒い地面が剥き出しになっている
PhotoDay 7 デセプション島。地熱で雪が溶け、黒い地面が剥き出しになっている
Grand Slam Plus Tick! ビデオ撮影でキメたポーズ(Photo Credit Racing The Planet)
PhotoGrand Slam Plus Tick! ビデオ撮影でキメたポーズ(Photo Credit Racing The Planet)
Spirit Award(特別賞)。船酔いでヘロヘロのまま表彰式へ
PhotoSpirit Award(特別賞)。船酔いでヘロヘロのまま表彰式へ
4 Deserts Grand Slam Plus 獲得選手たち
Photo4 Deserts Grand Slam Plus 獲得選手たち
Video公式YouTube「The Toughest Stage so far」(Day 4 ダンコ島)
About the contributor
@rena

Rena

サハラマラソン10年通いの他、世界の絶景見たさにステージレース(250km/7日間)に出まくる普通の旅人、主戦場は砂漠。2020年春、某外資系企業を退職してからは非日常の世界を求めて国内外あちこち、もはや日常化する。日本にいる時は城攻め、史跡巡り。2023年秋、法政通教文学部史学科に編入。

WebsiteX / TwitterInstagramFacebook
Back to race
The Last Desert (Antarctica)
Race Page →